ブレイン・シンフォニー

2020

HDヴィデオ

8分

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̶-『ブレイン・シンフォニー』のための覚書 ̶̶

『ブレイン・シンフォニー』は、わたし自身の個人的な体験として、また社会における集団的な体験としての「記憶の儚さ」について考えることから出発して制作された映像詩です。 わたしはこのところ忘れっぽくなってきて、人の名前や固有名詞が出てこないことがよくあります。何かを思い出すことができないとき、自分と一体であったはずの自分の脳が急にアクセス不能なものとして、異物感をもって立ち現れます。そして、それがこの先さらに自分の制御の及ばないものになっていく可能性を直感し、恐怖を感じます。そのようなとき、自分の頭から脳を取り出して点検し、また頭に戻せたらいいのにと思うことがあります。

何かを思い出せないということは、そこにあるはずの情報を読み出せないと言い換えることができるかもしれません。映 像を制作している自分にとって、その状態は、これまでつくってきた作品を保存しているハードディスクが壊れて作品を失ってしまうことを連想させます。または実家に眠っている、もう使われなくなったVHSやフロッピーなどの記録メディアを思い起こします。そこにはデータが格納されていますが、それを適切に読み込む機械を持たない限り、それは地面に転がる石のようにただそこにある物体となり、情報にアクセスすることはできません。

記憶と記録。

鳥取県で発掘された弥生人の頭蓋骨の中に、奇跡的に脳が 残っていたそうです。研究者はそれを解析し、弥生人が見た 風景を映像に再現することを夢想しました。しかし今の技術 ではそれは不可能だったため、弥生人の脳は未来に向けて厳重に保管されています。

別の視点。常に揺れ動き、改変され、薄れて消えていくこと について。移動し続ける砂丘の砂。それを吹き飛ばす風。風によって電力を発生させる風力発電所。わたしたちが使っている電気。わたしたちの脳内で情報を伝達している電気信 号。電気刺激によって脳の機能を高めようとする人たち。データを記録するメディアの進化。砂丘にできる風紋の波形と電気の波形の類似。エトセトラ。

 

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出演:周山祐未、根路銘翔以李

撮影・編集:地主麻衣子

音楽:やぶくみこ

造形物制作:高石晃、地主麻衣子

撮影協力:大下加奈恵、佐伯恵里、武田知之、田中良子、宮北温夫